『シャーロック・ホームズ』はおそらく世界一のカルト小説ではないだろうか。ここでいう「カルト」というのは「熱狂的なファン」がいるという意味で。シャーロック・ホームズを実在の人物として各種の研究をするシャーロキアンは世界中にいるし、宇宙人と戦ったり、ゾンビと戦ったり、夏目漱石と出会ったり、犬になったり、猫になったりと無数のパロディ、パスティーシュ小説が書かれている。
この『女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険』もそうしたパロディ小説の一つだ。ホームズの子孫の女子高生とワトスンの子孫の男子高校生がアメリカの高校で運命の出会いを果たしコンビを組むという、まぁ言ってみれば学パロ(学園モノパロディ)ですな。Kindle unlimitedで読めるということで読んでみた。
主人公というか語り手のジェームズ・ワトスンは、ジョン・H・ワトスン博士から数えて六代目の子孫、探偵のシャーロット・ホームズはシャーロック・ホームズから数えて五代目の子孫。このジェームズ・ワトスン君は幼少の頃からシャーロットの活躍を知っており、いつか出会ってコンビを組む日が来るかと密かにわくわくしているという少年。このあたり生まれながらの運命に出会うことを求めている思春期の少年というのがティーンエイジャーっぽくていい。というかこの小説ミステリ部分はなかなか事件が進展せずグダグダしているので、学園モノならではの少年少女の心の動きを楽しむしかないという面もある。
ヒロインのシャーロット・ホームズもアメリカに留学してくる前からすでに活躍しているという設定で、ご先祖様から受け継がれる探偵稼業のあれこれを習得しているのだが、まだまだ未熟な少女ゆえなのかシャーロック・ホームズほどの冴えは見せてくれない。割と性格悪いのはまぁシャーロック・ホームズもそうなので仕方ないよね~って感じなのだが。タバコも酒もドラッグとかも普通にやっている。そこは原典通りなのだが高校内部に売人が普通に出入りしてるって描写でアメリカの高校どうなってるんだと文化の違いを感じざるを得ない。
「まだらの紐」や「青いガーネット」、「瀕死の探偵」になぞらえた事件が起こったり、『シャーロック・ホームズ』原典ネタを色々取り扱っているが、私はそこまでホームズに詳しくないのでネタを読み落としているかもしれない。「黄色い顔」からのネタがあったのは気付いたが。しかし「まだらの紐」の謎解きは蛇は音聞こえないしミルク飲まないし滅茶苦茶というネタは『大逆転裁判』でも同じようなイジられ方をしていたが、シャーロキアンにとって鉄板なんですかね。
主人公が男女コンビということで友情よりも恋愛に傾いているのはまぁ仕方ないし、読者もそれを求めているのだろうけど個人的にはそこはのめり込めなかった。とはいえそれなりには楽しめたし続編もKindle Unlimitedにあるようなので読んでみようと思う。
後、表紙絵が萌え絵だってんでツイッター上で騒ぎがあったらしいけど、普段パンツスタイルなのにスカート履いてる、フツーのタバコ吸ってるのにパイプ持ってるとか小説の描写と違うのはどうかと思うけど(ワトスンはサスペンダー付けてるとか描写を拾ってるのに)、原作者は特に怒ってないらしいし、もともとアメリカのティーンエイジャー向け小説を日本に持ってきたらラノベみたいな表紙になるのはそりゃあそうだろうと思うので別にいいんじゃないですかね。でも竹書房さんKindleに表紙の画像入れないのはやめてください。