【読書】沢山美果子『性からよむ江戸時代』

『性からよむ江戸時代――生活の現場から』は江戸時代の史料を丹念に読み込み、当時の性の取り扱われ方について書いた一冊である。

第一章では小林一茶が書いた交合を記録した日記から、一茶は家を途絶えさせぬため連日の性交を繰り返していたことを書き、当時の子供を作るための性知識などを書く。

小林一茶は家を残すために子供を作ることを求め、強壮剤になる薬草を摘んだり何回性交したかなどをすべてに日記に書き留めていたという。本書に抜き出されているところでは九日間で30回も交合していてまぁ大変お盛んだなと思うのだが、妻との間にもうけた三男一女をすべて幼くして亡くした上に妻も37歳で亡くなるなどと江戸時代の命の脆さがわかる。

第二章では米沢藩川内戸かわないど村(現山形県川内戸)の善次郎ときやという夫婦の不義をめぐる離婚問題について書かれている。

ここで描かれる事例はきやが生んだ子供が夫の子か不義の子かどちらが引き取るかで両者主張を引っ込めず、最終的に代官所まで裁定に登場したというものだ。筆者は代官所から出された善次郎に厳しい判決の裏に藩の出産奨励政策を読み取る。筆者はこれを公権力による性への介入という視点から見てるけど、公権力の介入によって女性が保護されているという見方もこの場合できるよなと思う。もし村のまとめ役なり代官所なりという裁く期間がいなければ生まれた子供は善次郎に殺されて終わった話だっただろう。自由と安全というのは両立しない概念なのでどっちを取るかだが。

第三章では地域の医者たちの診療記録や難産の処方箋やその伝わり方から当時のいわば産婦人科学について書く。当時子供の命と母体の命では後者が優先されていたこと(今日ではどっちなのか私にはわからないが)、堕胎は戒められていたがその需要は確実にあったことなどがわかる。

第四章では江戸時代後期の町人の日記から性売買の実態について書かれる。江戸時代の性風俗といえば吉原のように公権力に認められた遊所というイメージがあるが、本書では私的に隠れて売春をしている「隠売女」の広がりに焦点があたっている。こうした隠売女は公的な遊郭の脅威として摘発・検挙され入札で競り落とされて遊女として新吉原に抱えられたそうだ。入札された額で最高額と最低額に35倍ほどの開きがあるのが面白いが、養子として引き取られた捨て子が遊女に出されることが多かったというのが生々しくて嫌な気分になる。

第五章では江戸時代の性について総体的に論じているのだが、妊娠・出産は管理されており、藩は家同士の婚姻という制度を民衆にまで適用させようとしていたということが書かれる。「性におおらかな江戸時代」というイメージがあるが、本書を読んだ後では一概にそのようなことは言えなくなるのではないだろうか。

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