深堀骨『人喰い☆頭の体操』

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深堀骨ふかぼりほねという小説家をご存知だろうか

 深堀骨という小説家をご存知だろうか、というのは形式的な始め方であって、皆さんの方に「知ってまーす」などという反応を期待しているわけではない。仮に知っていたとしても「知ってまーす」などとは絶対思わないだろう。そんな知る人ぞ知る作家が最近新作を出した。

 電子書籍オリジナルで短編だが立派な新作である。いや単行本は出さないが雑誌などで短編を出していたのは知っていたけど。『<乳首の長い女ブーム>に異議あり』とか。というか今ググったらCiNiiに登録されててビックリしました。

カテゴライズ不能のくだらなさ

 『人喰い☆頭の体操』は人食いのバケモノのために、<小円遊御殿>なる空間に収容され肥え太らされている男たちを書いた小説だ。男たちは『笑点』のアーカイヴしか映さないテレビを見続け、不定期にやってくる嘘魂という男に抜き打ちでお題を出され、つまらないと判断されると人食いに食われる。コイツ気でも違ったかと思われそうだが実際そういう話なんだからしょうがない。

 深掘骨の作風を文章で理解させるのは困難であり、実際に読んでいただくのが一番の近道なので、ここは一つ無料で読める短編を読んで欲しい。読み終わってこんなモン時間をドブに捨てたようなもんだと怒り出さなかった人は深掘骨を読む才能があります。

『白熊座の女は真夏の夜にここぞとばかり舌を鳴らす』

 深掘骨の作品はどれもぶっ飛んだデタラメを核にし、脱線を交えつつデタラメの大風呂敷を広げに広げ、普通だったらどう考えても墜落するところを何故か着地してしまうとんでもない小説だ。読んでいると「くだらねぇなぁ~」と何度も思わされるのだが同時に脳の普段使ってないところを使わされて疲れるのだ。

 良い意味でも悪い意味でもくだらない小説は他に色々あるが、深掘骨作品のくだらなさは独特でカテゴライズできない。清水義範のパスティーシュ小説に近いものがあるが、深掘骨の書く論文調の小説は模倣が目的なのではなく、デタラメを広げるのに便利だから論文の形式を取っているだけで、作者の興が乗ったとき平然と論文形式から脱線する。

 今「作者の興が乗ったとき」と書いたが、作品を読んだ後に感じる脱力系疲労感は音楽のグルーヴ感に似ている。作品の広がるデタラメに巻き込まれているのは作者も同じで、ミュージシャンが自分の演奏する音楽にノってアドリブを入れたりするように作者も脱線をしているのかもしれない。

 とにかく独特で臭いが癖になる食べ物みたいなものなので、『白熊座~』を読んで気に入った深掘骨を読む才能がある人は他の作品も手にとって欲しい。

『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』を電子書籍化して欲しい

 だがこの作家をオススメするにあたって短編集の『アマチャ・ズルチャ』が中古品でしか手に入らないという状況は実にやりづらい。そりゃそうだよこれしか単行本出してないし2003年とかなり前の本だし。なので電子書籍化、またこれ以降にSFマガジンなどに載せた短編も纏めて欲しいが難しいだろうか……。

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