『虚空門 GATE』UFOは飛ぶ。夜空に、晴天に、リアルとフェイクの狭間に、人の心の中に

月面異星人遺体動画に触発された監督の小路谷秀樹は、その真偽を問うためUFO研究家への取材を進めていく。動画はフェイク映像であるとの意見が多かったが、UFO遭遇体験者への取材を重ねていくなかで、UFOを呼べるという男・庄司哲郎と出会い、一緒にUFO撮影を試みる。すると実際にUFOが現れ、撮影に成功する。数カ月後、小路谷は改めてUFO撮影を試みるが、肝心の庄司が行方不明となってしまう。彼は何者だったのか、真実は何なのか、UFOを撮影することは出来るのか、はたしてUFOは存在するのか?事態は驚くべきクライマックスを迎える
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まずこのあらすじを読んでどう思います? 『Xファイル』みたいなSFサスペンスかなと思うかもしれないけど、驚くべきことにこれドキュメンタリー映画なのだ。

前の記事で読んだ『皆殺し映画通信 御意見無用』で褒められてた……褒められてたっていうのかな。とにかく複雑な「UFO体験」についての正しい映画だと述べられていて興味を持ったので観てみたのだが、確かにすごい映画だった。

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あらすじ

以下ネタバレがあります。

UFOを呼べるという男、庄司哲郎との接触

月面異星人遺体動画をホンモノじゃないのかと思った小路谷監督は、様々なUFO研究家やUFOに出会ったという人とか宇宙人に会ったという人に取材を始める。だいたいの研究家は動画はフェイクでしょうというのだが、この動画を作った人は何らかの形で宇宙人の存在を掴んだんじゃないかとかどこか論理というか願望が混ざってる感じでおかしい。UFOの映像を撮ったというおっさんも出てきてビデオを見せてくれるのだが、映像は粗いし、なまりはきついしでよくわかんないよ!

取材を重ねていく中で「UFOなんか当たり前のように飛んでるし誰でも見れる」と豪語する人が登場。どうもこの人が庄司哲郎らしい。ちなみにこの人は有名なUFOを呼べるというコンタクティー1)UFOや宇宙人と接触したと主張する人で俳優でもある。外見は新井浩文を男前にしたような感じ。この映画、登場する人を何してる何とかさんとか紹介してくれないので誰が誰だかわからない。というか全体的に説明がない。

で、あらすじでは「すると実際にUFOが現れ、撮影に成功する」って書いてあるけど撮影に成功してないです。何もない空が映って「あれだあれだあれあれ!俺UFO見ちゃった!」と監督たちが騒いでるだけ。「真上にいる!」と騒いでいるのだが、画面は真っ暗で何も見えない。集団幻覚を見ているとしか思えない。その後も監督たちはUFOを見ることに成功するのだが必ず映像がない。監督失格もいいところである。監督が「撮ってねえのかよー!」と自己ツッコミを入れてるのだが本当だよ!

失踪する庄司、そして……

月面異星人遺体動画を観て「多分月の人なんじゃないの」と根拠もなく断言する庄司。「宇宙船ごと埋葬されたんじゃないか」というのが彼の意見。明日また会おうという約束を監督とする庄司だが、当日連絡がつかず失踪してしまう。大家さん立ち会いのもと部屋に入るのだが、なんと鍵や財布まで残していなくなっている。彼女にも連絡をしておらず、こりゃあただ事じゃない感じ。関係者に聞き込みに回る監督だが、覚醒剤がどうとか言う人が出てきて視聴者としては「えっそういう人なんですか?」ってなる。

で、映画を観ていると、庄司からの手紙がどうしたとかいう話が出てきて、どうも警察に捕まっているらしいということがわかってくる。いや、捕まったら捕まったとハッキリ言ってくれればいいのになんで仄めかすような撮り方をするんですかね……。どういう罪で捕まったのかわからないが、懲役2年、執行猶予4年という判決を受けたとテロップが出る。いやだからどういう疑いで捕まったのかも書いてほしいんですが……。あまりに気になったので映画観ながらググってみたら覚醒剤取締法違反とのことだった。やっぱヤバイ人なんじゃないか!

冤罪を訴える俳優・庄司哲郎が覚醒剤逮捕のウラを暴露!「謎の女、小倉智昭、宇宙人とバトル、陰謀」

拘置所から出てきて再び映画に登場した庄司だが、昨日拘置所でオレンジ色のグレイとバトルしたと言い出し、首の傷跡を見せる。「指が伸びるのよアイツら」やっぱりヤバイ人だよこの人! 上の記事でも言っているように本人は冤罪を主張しているのだが。

その後監督たちと一緒にまたUFO撮影のために出かける庄司。この人は映画の中で何回もUFOを撮ったとしてスマホの写真を見せるのだが、ここでも画面の中に棒状の影が映った写真を撮影する。その後、一行はコテージに向かうのだが、庄司のいないところで同行者の一人から監督に話が。「庄司さんがこよりみたいなのを作ってスマホの前に構えて写真を撮影していた」ヤバイ人の上嘘つきかよ! そしてカメラは庄司が実際にこよりをスマホの前にかざしてUFO写真を撮っているところを撮影してしまう。しかし監督は今こより使ってたでしょと詰問せず、そのままUFO撮影の旅行を共にするので、一体どういうつもりなのか不安になる。ドキュメンタリーと言ってもこの場面は監督が指示して撮らせたのかもしれないし、映像には映ってないとはいえ、監督と庄司たちは一緒にUFOを見てるんだよな……。この虚実皮膜のあわいがUFOなのだろうか。

国会議事堂の前でUFO撮影をする監督たちだが、庄司はここでもあからさまにこよりを使ってUFO写真を撮る。いや、いくらなんでもあからさまに撮影してておかしいだろと思うのだが。前回の場面は隠し撮りっぽく撮っていたが、今回は普通のカメラで撮ってるし。そしてそのUFO写真を真実だ! とキャッキャして喜ぶUFO研究家、竹本良(当然劇中では何の説明もないので「UFO 研究家」でググって調べました)。これがトリック撮影だったら自分の人生壊れちゃうと言っているのだが、もうそんな人生壊れたほうがカタギな人生になるのでは……?

監督は庄司にトリック撮影について聞くのだが……

そしてとうとう監督は庄司に撮影中スマホの前にこよりを動かして撮っていたシーンがあったと庄司に尋ねる。実際にやってる映像を庄司に見せるが、本人は「やってない、記憶にない」と否認。「神に誓ってやってない」という庄司だが、後日撮影した時には「宇宙人に命令されてやった。使った棒は回収された」などと訳のわからないことを言い出し主張が二転三転。トリック撮影をやっている映像を見せられた竹本良先生も泣きそうな顔です。マジで信じてたんだなあこの人……。

「疑うんならいくらでもUFO呼んでやるよ」と開き直る庄司。そしてシーンは庄司と彼女の結婚式の場面へ(なんで!?)。UFO仲間から祝福を受ける二人(どうでもいいですが出席者にアルミホイル製とおぼしきとんがり帽子をかぶっている人がいて気になる)。カメラの前でUFO体験について語りだす出席者達。そしてその夜、彼らは夜空を横切る光点を発見し、UFOだ!と喜んで終わり。

感想:人の心の中にUFOは飛んでいる

いやぁ観る前に想像していたより2,3周りくらいすごい映画だった。月面異星人のビデオのドキュメンタリーとして始まったはずの映画が、庄司哲郎という男のドキュメンタリーになっていき、最終的には、でもUFOを信じている人は皆こういう世界に生きているんだろうなと感じさせるような広がりがある終わり方になっている。監督は2013年から撮影を開始していたそうで、完成形を見据えて撮ったわけではないだろうけどなんか綺麗に締まっているのが不思議。

この映画の中心になってる庄司哲郎って中盤で逮捕されるっていうショッキングなことになってるけど、UFOビリーバーってきっと皆こうなんだろうなって雰囲気がある。彼を取り巻く彼女や大家さんがそれぞれキャラ立っていて人間ドラマを描くドキュメンタリーとしても面白くなってるのがすごい。劇中で結婚した彼女が「この人には私がいないと」ってありきたりなドラマにあるセリフを本当に言っていて、リアリティを超えた究極のリアルを見せつけられましたね! 陳腐なセリフだけど実際にそういうドラマを生きている人間がいて、きっとUFOビリーバーだけじゃなく、いろんなところで同じようなことを言っている男女がいるんだろうなと想像させられましたよ。やっぱ顔が良いって得だな(さらに陳腐な結論に落とし込む俺)。

そして映画に出てくるUFOビリーバーの人って皆幸せそうなんだよね。監督たちを職質した警官の中に偶然いたUFO好きの人までもUFOのことについて語ってる時楽しそうにする。「何かを信じてること」の強さが見えてくる気がした。昔読んだUFOの本に、「UFOに拉致された体験を持つ人は、必ずその体験をしてよかったと語っている」などと書かれていたことを思い出したが、あれって本当なんだなと。

トリック撮影のことを問い詰められたら、その場ではまったく記憶にないと言っていたのが、次にあった時は「いやあれは宇宙人に渡されたもので、否定しろって命令されてて……」と証言が変わっていくのもビリーバーの精神構造を完全に収めた記録ドキュメントになっていて非常に良かったのではないでしょうか。

リアルかフェイクかという出発点から始まった映画だが、リアルでもフェイクでも信じる人は確かにいて、人の心の中では確実にUFOが飛んでいる、というようなドキュメンタリー映画だった。UFO好き、ドキュメンタリー好きの人は観て損はないと思う。アマゾンプライムでレンタルできるし。


脚注

脚注
本文へ1UFOや宇宙人と接触したと主張する人
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