【後半ネタバレ感想】『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』かわいくてカッコよくて最高じゃないですか

最近話題の中国製劇場アニメ、羅小黒戦記を観てきたのだが非常に面白かった。円盤なんかの予定が決まってないらしいので、これは今すぐ観れる時に観た方がいい映画ですよ。

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あらすじ

人間の自然開発によって居場所を失った黒ネコの妖精、小黒シャオヘイは、旅の途中で妖精の風息フーシーに助けられた。フーシーはシャオヘイを仲間たちに紹介し、人里から遠く離れた島へ招く。その島へ人間でありながら最強の「執行人」無限ムゲンが現れ、シャオヘイとフーシーは離れ離れになってしまう。シャオヘイはムゲンに連れられ、人間と共存する妖精が暮らす会館へと旅をするのだが……。

感想

アニメーションの完成度が素晴らしい

割と線が太めで影も少ないイラスト的な絵柄で描かれるのだが、全体的にアニメーションが凄まじく出来が良い。2Dアニメなんだけど「今3Dになった?」と勘違いしそうになるほどなめらかに精密な動き方をしつつ、激しくキャラクターが動き回るアクションシーンもすごく気持ちがいいし超常の術を使ったバトルがかっこいい。また、何がいいって主人公のシャオヘイがとんでもなくカワイイ。特に子猫形態。かなりデフォルメされた絵柄なのだが、本物の子猫以上に子猫らしい動きをして、本物の子猫以上に子猫らしいかわいさがあって、まさにアニメでしかできないかわいさの表現だ。キャラクターは全体的にカワイイんだけど、中でもシャオヘイのかわいさは図抜けている。

最初、在日中国人をメインターゲットにした興行だったのが、日本のアニメーターや監督が話題にして口コミでロングランヒットしたそうだ。そりゃあこれだけクオリティ高いアニメなら話題にもなるよな、まして同業者だったらなおさらといった感じ。中国のアニメーション恐るべしだ。海外アニメが日本で大々的に公開されるのってディズニー・ピクサー・ドリームワークスなんかを除けば珍しいけど、これをきっかけに良いものであれば無名でもウケるという流れが出てくればいいなと思う。

――在日中国人向けを意図した上映にもかかわらず、日本の観客のほうが多くなった理由は?
 アニメーターや監督といった、日本でアニメを制作されているプロの方々が、映画館で『羅小黒戦記』を見て、口コミで広めてくださったんです。この方たちがTwitterやSNSでいろいろと発信してくれたことで、最初の波が生まれました。後になって「私たちのプロモーションじゃないか?」といわれるんですけど、じつはそうではなくて、たまたま偶然です。

異例のロングランヒット、中国アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の舞台裏に迫る (3/4)

中国舞台の現代伝奇という題材設定がいい

良かったのが、「中国舞台の現代伝奇」という題材。「新鮮」というより、懐かしいものが現代的にアップデートされてまた戻ってきたという感じですかね。今の日本のコンテンツだと、ファンタジーは徹底してファンタジー世界の中に隔離されているものが多かったので、現代社会をベースにしつつ妖精がいて、人間と共存する妖精もいるし、人間と妖精間の問題を取り扱う機関もあって……という現代伝奇――自分の大好きなヤツ――は大いに楽しめた。

現代中国の都市を舞台にしていながら、最終戦はドラゴンボールレベルの規模で戦うので破壊描写が半端なくそこも見どころ。しかし子供でも見られるようにとの配慮か(いやこの作品のターゲット層は知らないのだが)、破壊される都市に住む人間はほぼ全員避難させているという話になっているんだけど、それを成立させてる術者が「えっこの人最強なんじゃね」って感じで非常に好き。そういう主要キャラ以外にもいろいろな人間/妖精がいて、彼らもまた活躍してますよという世界の広がりをもたせる描写がある作品は良い作品だ。キャラクター立て力もすごくてこの世界のこの人の話をもっと見たくなる。

冒頭に書いたあらすじからするとムゲンが悪いやつに見えるが、むしろ映画の半分以上はシャオヘイとムゲンのロードムービーで、だんだんシャオヘイがムゲンに心を開いていくのがドラマになっている。ムゲンはシャオヘイに金属を操る術を教えたりして師弟関係になったりするのだが、二人が仲良くなっていく様子、シャオヘイが術を使いこなせるようになっていくという成長、中国という広い舞台と要素の全部がロードムービーに合っている。アクションシーンの作画がいいと書いたが、空気感が伝わってくるような旅のアニメーションも良いのでそこも楽しめる。デカいモールのフードコートで食事をしているシーンは、昔上海に行った時のことを思い出した。街中からちょっと離れた郊外の村まで色々回ったけど中国の田舎と都会の光景がそのままアニメになってる感じがする。

事前情報ほとんどいれず観に行ったがとてもおもしろかったし、幅広い観客が楽しめる映画だと思う。観に行って損なし。

ここから先はネタバレが含まれます。

ストーリー的には『平成狸合戦ぽんぽこ』が近い

日本アニメから近いものというか、『羅小黒戦記』に含まれている成分を上げるとしたら、空間を飛び回る戦闘は『ドラゴンボール』、金属を操ったり樹を操ったりの術で戦うのは『NARUTO』、終盤街を飲み尽くす空間のビジョンは『AKIRA』といろいろあるのだが、一番近いのは『平成狸合戦ぽんぽこ』だと思う。自然の開発で故郷を追われた妖精/狸が人間社会に復讐を企てるが失敗し、人間社会と共存の道を選んだ妖精/狸もいたという話。人間と妖精の最後の街のど真ん中に大木が生える終わり方は、『ぽんぽこ』の最後の化け術のシーンにすごく重なるし狙ってやったんじゃないかとまで思う。

人間社会を拒否して死んだ妖精はキャラデザと声のせいでかなり悲痛なキャラクターになっていて、そこは『ぽんぽこ』と違うだろと言われるかもしれないが、『ぽんぽこ』は表面上コミカルに見せてるだけで逆に子供向けにしていないので(子供が見ても学生運動の末路とかどうしようもない連中の集団自殺とかわからない)、『羅小黒戦記』のほうが『ぽんぽこ』のテーマをストレートに出すとこうなりますというのを示しているのかもしれない。ただオチで完全な「説教」をした『ぽんぽこ』と「どうせ材木になるだけなのに」「有料公園になるかも」というやり取りであくまでも人間の選択で妖精の末路は決まってしまうという苦目の収め方をした『羅小黒戦記』とでは後者のほうがよりスマートかな。というか今考えると『ぽんぽこ』がわかってやってる悪趣味の塊にも思えてきたぞ……!

この映画、仲間になって彼が中心で話が進むかと思われたフーシーをいきなり別れさせてムゲンとのロードムービーになるというちょっと変わった話の進み方をするので、上手くやらないと話が混乱しそうなものなのに、自然な形で移行し観てるこちらの気持ちもスムーズに移っていくのがなかなかすごいと思う。もちろん波の動きや待ちゆく人の細やかな動きなど絵の力は大きいんだけど、絵の良さとか演出だけで話をごまかそうとしてごまかせてない映画もあるしなー。こういうウェルメイドな作品って今の日本で作れるのかなと思う。

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