結論から言うと『フィフス・エレメント』が好きな人間にはオススメ。
すでにグーグルのサジェストで、「ヴァレリアン 大コケ」と出てくるようになっているが、私は『フィフス・エレメント』が好きなので映画館に行ってきた。
観終わった感想としては……。五点満点で点数をつけるとしたら、三、あるいは二点、だが嫌いになれない作品というものがある。私にとってはこれはそういう映画だ。
あらすじ
西暦2740年。
銀河をパトロールする腕利きのエージェント、ヴァレリアンは
同僚の美女、ローレリーヌに首ったけ。
忙しい任務の合間を見てはあの手この手でアプローチを試みるが、
愛しの彼女は一向に振り向いてくれない。そんなある日、二人が向かった巨大宇宙ステーション”千の惑星都市”が
放射能に汚染されていることが判明した。
全種族が死滅する危機を「10時間以内に救え」という
極秘ミッションを託されたヴァレリアンたちの前に突如現れたのは、
30年前に消えたはずの平和な惑星パールの住人たち。彼らの思惑とは一体…?果たしてヴァレリアンは銀河の危機を救い、ローレリーヌにプロポーズすることができるのか―!?映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』 | オフィシャルサイト
「あらすじ」と見出しに書いたが、正直なところこの映画のあらすじを説明して他人に理解させる自信はない。とてつもなく難解な映画というわけではない。活劇の舞台となる場所や登場する種族が多すぎて次から次へとシーンが展開する上に、「詳しくは説明しないけど雰囲気でわかるだろ? 映画を楽しむためには一から十まで理解する必要は別にないしな!」という部分も多くて私も全部理解しているとは言えないからである。だからこの記事は読み手が観たという前提で書いていきます。観てない人はレンタルなりビデオオンデマンドなりで観てください。面白いから。
『ヴァレリアン』がよくできていない3つの理由
ストーリーが整理されてない
まずこの映画はヴァレリアンとローレリーヌはどんなキャラクターで、どんな克服すべき欠点を持っているか、などというわかりやすい説明パートなんて入れちゃくれない。いきなり、ご存知ですよね、彼はヴァレリアン、彼女はローレリーヌです、というような勢いで主人公たちが登場するので、「これ続編映画なのかなぁ……」と思ってしまったくらいである。そして最終盤のストーリー的な盛り上がりがイマイチ盛り上がっていない。知的に発達した原住民がいる惑星に核融合爆弾を打ち込み、その事実を隠蔽するため関係者全員処刑しようとした司令官との戦いはもうちょっと盛り上げられたのでは? 最後に愛は勝つのだという終わり方は『フィフス・エレメント』のセルフオマージュでいいのだが……。
キャスティングがはまっていない
デイン・デハーンは線が細い童顔のハンサムフェイスだが、落ち窪んだ目元に影があり、そこに「壊れもの注意!」な危険性が漂っている。『クロニクル』の超能力に目覚めるも能力を持て余して暴走していく高校生や、『アメイジング・スパイダーマン2』の先祖から遺伝した病気の症状に怯え試作品の薬物を使用したことでグリーンゴブリンになってしまうハリー・オズボーンにはその雰囲気がハマっていた。しかし明るいスペースオペラの主人公にはまったくマッチしていない。いくつもの勲章を受賞した宇宙連邦捜査官には幼すぎて全然見えない。
原作ストーリーの選び方は適切か?
本映画の原作「ヴァレリアン」は、1967年、原作ピエール・クリスタン、作画ジャン=クロード・メジエールの手で誕生。連載先は週刊誌「ピロット」で、当初は「時空警察ヴァレリアン」というタイトルだった。雑誌は1980年代末に廃刊になるが、その後も単行本は描きおろしで刊行され続け、2010年、実に40年以上の歳月を経て21巻で完結。ヴァレリアンとローレリーヌの馴れ初めを描いた0巻とガイド的な22巻を加え、現在は全23巻となっている。映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』 | オフィシャルサイト
この映画は原作の第6巻「影の大使」、第2巻の「千の惑星の帝国」を元にして作られており、この2つのエピソードを収録した邦訳が発売されている。邦訳を読んだのだが、結構ビックリする発見があった。映画の後半のストーリーは「影の大使」をもとに作られているのだが、このエピソードの主役はヒロインのローレリーヌで、主人公のヴァレリアンはほとんど登場しない。映画でも序盤:ヴァレリアンパート、中盤:ローレリーヌパート、終盤:ヴァレリアンパートと主役が交代するのだがこれが展開が詰め込まれすぎてると感じる原因の一つなのではないだろうか。23巻もあるんだからもっと映画化しやすいエピソードがあったのでは? と思ってしまう。
なんでこの映画が楽しかったのか
リュック・ベッソンはこの作品の世界を信じている
否定的な事を最初に並べ立てたが、この映画を私は楽しんだし、素晴らしい映画だと思う。なぜいくつもの欠点があるにもかかわらず私がこの映画を楽しめたか考えると、リュック・ベッソン監督がヴァレリアンというキャラクター・世界観の持つ価値・力を信じているからだ。
ベッソンは10歳のころからこのマンガのファンだったそうな。『フィフス・エレメント』でジャン=クロード・メジエールと一緒に仕事をして以来、いつか『ヴァレリアン』をやりたいなぁと思っていたのだが、『アバター』を観て、今ならできると思いたち8年かけてフランス映画史上最高額とも言われる制作費を注ぎ込んでこの映画を作ったのだとか。
観ている間次から次へと高速で浮かんでは流れていくスペースオペラ的映像には熱意と愛が溢れていた。邦訳された原作を読むと映画館で「すげぇけどこれいる?」と思っていたエイリアンや宇宙生物、ステーションの情景はバンド・デシネのアートを忠実に再現したものだとわかる。1970年代のコミックのビジョンとその当時のストーリー展開のテンポをそのまま映画化するというのは「これはカッコよく、すばらしく美しいものなんだ」という揺るぎない信念がなければできまい。そしてその信念に基づいた映像が観客を圧倒する。ここに至ってはそんなの現代的じゃないよなんて笑ってる方がダサいのだ。
作り手がその存在を信じられず、「今どき正義と真実とアメリカン・ウェイなんてなくない? クラーク・ケントを自分探しの旅を続ける30歳住所不定無職にしよう」とか「こんなフィクショナルな世界観できるわけねーだろ……。悟空はいじめられっ子の高校生な。ほら、ベスト・キッドみたいなアレでいくぞ」などと日和ると『マン・オブ・スティール』や『ドラゴンボールエボリューション』のような映画ができあがってしまう。
次から次へ表れるビジュアルに酔えばいい
まず、上の曲をまるまる全部流しながら人類の宇宙進出、異星人との交流、アルファ宇宙ステーションの成り立ちを見せる映画オープニングで心を掴んでくる。つづく惑星ミュールに住むパール人の生活と空から降ってくる宇宙船らしき物体による滅亡をセリフなしで見せるのだが、この異星人の暮らしのビジュアルがまた美しく絵画的で、エキゾチックな異星描写だったらとりあえずアバターっぽくしときゃいいだろと思ってるそこらの映画と格の違いを見せつけてくる。
ヴァレリアンが登場してからはアクションシーンの連続になるが、ビッグマーケットで2つの世界を同時に移動しながら追っ手から逃げるシーンはよくこんなアイディア考えるなという奇想だし、誘拐された司令官を追って行方不明になったヴァレリアンを探すために宇宙クラゲを被ったり、宇宙ステーション内に排他的な自治区を広げているエイリアンにローレリーヌがさらわれたりと「エッその展開本筋と関係ある!?」と驚いている間に、じゃあ次は何が出てくるんだと手品師の前に座った観客になっているのである。
合ってないと思っていたキャスティングもこの頃になるとこれはこれでアリかと思えてくる。原作の絵柄でもヴァレリアンはたくましいタフガイというイメージではないし……というか原作のアートは確かにオシャレで大人気になったのが今見てもわかるので興味ある方はぜひ翻訳を買っていただきたい。
最初に呈した疑問点も自分がヴァレリアン弱者であるという方が問題なのかもしれない
前述したように原作は2010年に完結とかなり最近まで継続していたシリーズであり、このタイトルはバンド・デシネを代表するシリーズでもあるそうだ。だとしたら最初に私がいった「どういうキャラなのかつかめないままストーリーがはじまる」「原作のエピソードもっといいのあったんじゃないの」という問題も私やアメリカの観客がマーケット外の人間だったから起きたのかもしれない。原作ファンにとってはヴァレリアンやローレリーヌのキャラクターなど説明されるまでもなくわかっているし、この原作エピソードが特に人気があり映画化を嘱望されていたなら、コンビの誕生エピソードなんて退屈な手続きにすぎないわけだし。実際「影の大使」を読むと活躍するローレリーヌが魅力的でかわいいので映画にしたいという気持ちがわかる。
ヴァレリアン (ShoPro Books)
もちろん大量に資金をかけた以上世界のマーケットで売れなきゃ回収できないのは当たり前だが、原作ファンのリュック・ベッソンが「そんなことはわかっているがわかるわけにはいかぬのだ!」と好き放題やったとして誰に文句を言う権利があるのか? 俺の好きな原作を俺が好きなように映画化してみせるんだという野望を叶えたベッソン監督を讃えずにいられるオタクがどの世界に存在するだろうか?
彼はあの日見た夢を愛によって映像化したんだ。これぞ作家ってもんじゃないのかね。
続編はネットフリックスで?
ベッソン監督は続編もやる気らしく、NetflixがEuropa Corpへ買収の打診をしているなどという記事もあった。冒険活劇と連続ドラマの相性はかなりいいと思うので映画シリーズより、ビデオオンデマンドサービスでのオリジナルドラマの方が長続きするかもしれない。問題は権利だけ買われて監督は交代というパターンだが……。