【読書】架神恭介, 辰巳一世『完全教祖マニュアル』ビジネス書風の宗教入門書

架神恭介, 辰巳一世『完全教祖マニュアル』を読んだ。読む前はもっとキワモノというか、新興宗教によった内容のものかと思っていたが、意外にも「著者の考える宗教論」をマニュアル本の形式で包んだ、とっつきやすい宗教についての解説書のようになっていてちょっと感心した。

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要約

  • 日本人は宗教的知識がなく、「なんとなく無宗教」だから宗教の付け込む余地がある。
  • 宗教の「教義」は既存のものをパクって改良したり、価値観を転倒させて「負け組」と呼ばれているような人を「勝ち組」にしてしまうような反社会的なものを作ろう。
    • 教義が出来上がったら、インテリ信者に哲学思想にまで磨きをかけてもらおう。
  • 大衆にわかりやすいよう教えを簡略化しよう。
  • 日本人は墓参りや葬式をやりたがるので葬式をやろう。(この祖霊崇拝という概念は『メイドインジャパンのキリスト教』でも出てきましたね。)
  • 信者をハッピーにさせ、現世利益をうたおう。
  • わかりやすいシンボルやマークなどを作って偶像崇拝しよう。
  • 怪力乱神を語り、不安を煽ろう。
    • 不安になった信者に救済を与えよう。
  • 食物規制、断食、記念日などを作って、日常的に信者に自分は○○の信者なんだと自覚を与えよう。
  • 権威を振りかざし、義務を与えよう。
  • 宗教は胡散臭がられるので科学の体裁をとろう。
  • 弱っている人や金持ちを狙って信者の数を増やそう。
    • この時、親族も信者にしておかないと、教祖となったあなたを説得に来て教祖のカリスマ性を削ぐので、親族を引き込んでおくこと。
  • 信者を動員して戸別勧誘をしよう。
  • 浄土真宗の「講」や、創価学会の「座談会」のようにコミュニティを作ろう。
  • ディズニーランドや伊勢神宮のように一歩入れば非日常な宗教建築を作ろう。

ここまでが実践編の内容。どうですなかなか面白そうでしょう。

ここから教祖がどのように甘い汁をすっていくのかは自分の目で確かめてみてくれよな。

感想:マニュアル本の形を借りて作られた一種の宗教論であり、宗教学の入門にもなるかもしれない

本書はビジネス書風のマニュアル本、ハウツー本の体裁をとって、新興宗教を立ち上げて教祖になり、教義を作ったり、教団を大きくしたり、歴史に名を残すような宗教まで成長させていくためにはどうすればいいか? という疑問に答えてくれる、まさにタイトル通りの『完全教祖マニュアル』だ。

著者は「教祖の仕事は人をハッピーにすること」と定義し、教祖になろうとする人間がしなければならないタスクを列挙することを通して「宗教とはどのような機能を持つのか?」という一種の宗教論を展開している。これは以前の記事で紹介した「主要な宗教の中心的真理は4つの基本的教義に還元できる」という主張をした松村介石のやったことと近いのかもしれない。「宗教とは信者をハッピーにすることである」というのが著者にとって主要な宗教から抽出できる本質なのだろう。

また、教祖がやるべきタスクの流れは、まさしく世界中の伝統・新興宗教がやってきたことの流れでもあり、簡単で大まかなものだが、宗教史や宗教学の入門になるかもしれない

*

また結構実践的なことも書いていて、「まず仏教、キリスト教などの伝統宗教、もしくはそれなりに歴史のある新興宗教へ入信しろ。真面目に信者生活を送っていると、教えに対してこれは現代的感覚と合ってないなと思うところが出てくるので、それを修正した教えを旗印に別の一派として教団を立ち上げろ」とある。

これって新興含めた宗教をちょっと調べたことがある人にとっては「あるあるネタ」で、こんな感じに教団を立ち上げた人は実に多いのだ。

例えば古代ペルシャのマニ教の教祖マニ、彼は幼少からエルカサイ教団1)ユダヤ系とかキリスト教系とかとにかくチャンポンな宗教団体だったらしいで育てられたのが、啓示を受けてマニ教を立ち上げた。

他にもオウム真理教の教祖麻原彰晃、ヤツももともとは阿含宗という1978年に創立された仏教団体にいたのだが、阿含宗は阿含経本来の教えと離れていると阿含宗を飛び出して作ったヨガサークルが後の現代最大の淫祠邪教集団へ成長していく。

また、集団自殺事件で注目された「太陽寺院」も、教祖のリュック・ジュレはもともと再生テンプル騎士団から独立する形で教団を創立した。

宗教団体でノウハウを学んで(?)から独立した系教祖というのは多いのだ。大川隆法のように普通に商社マンやってたら啓示を受けて宗教活動にとか、科挙に落ちまくってたら突然自分がキリストの弟であることに気付いて太平天国を建国した洪秀全のような一般人がある日突然目覚めたパターンももちろんあるが。

本書をビジネスで活かすなら

読みようによってはこの本、ビジネス書として読むことも可能かもしれない。信者の心を掴むやり方というのは部下の心を掴むやり方にも通じるし、現世利益を語りコミュニティを作るなんてのはオンラインサロン商売とそっくりだ。むしろオンラインサロン商売とは宗教なのだと言ってしまってもいいのかも。

また、この本の内容を本気で活用して新興宗教ビジネスに乗り出す人も中にはいるかもしれないが、そういう人にとっては本書は字義通りの「ビジネス書」だ。

現在新興宗教を立てるなら……?

現在新興宗教を立てるなら、あんまりこういう話題を出したくないが、コロナの社会不安につけ込むのが正道だろうねぇ。また、差別主義者によりそって、彼らの世間一般には大きな声で言えない願望を肯定してあげるっていう手もありそうだ。オカルトと政治思想というのは相性がいいらしいし、政治活動を乗っ取って宗教団体に変質させてく……なんてのも一計かもしれない。そんなことを読みながら考えてしまった。

一風変わった宗教の入門書として読んでみるのもいいし、ビジネス書のパロディとして読んでも面白いだろう。一読の価値アリです。

脚注

本文へ1ユダヤ系とかキリスト教系とかとにかくチャンポンな宗教団体だったらしい
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