Kindle Unlimitedで最近読んだ本~進化史とか古典怪奇文学とか

今回も前回の記事のようにKindle Unlimitedで最近読んだ本を並べていく。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

人体 失敗の進化史

ホモ・サピエンスの短い歴史に残されたのは、何度も何度も消しゴムと修正液で描き換えられた、ぼろぼろになった設計図の山だ。
遠藤秀紀『人体 失敗の進化史』

鰓が顎に、顎の骨が音を聞くための耳の骨に、カルシウムとリンを保存するための構築物が背骨に、生物の進化がいかにして進んできたのか、そしてその進化がいかに場当たり的に進んでいったものかを解説する一般向けの生物学の本。へそは哺乳類に限らず亀や鳥にもある。というか卵の黄身と卵の中の子供を繋いでいた器官を胎盤と胎児をつなぐものに進化させたものというのが興味深かった。ファンタジー世界のリザードマンや鳥人にへそがあっても何もおかしくないわけだ。

人間の二足歩行は大胆かつ強引な設計変更で、そのためヘルニアや肩こりなど負の産物が生まれてしまった……というのが「失敗の進化史」という書名の由来である。

著者は東京大学総合研究博物館教授で、様々な動物の遺体を解剖、調査することでその動物がどういう進化の道筋を歩んできたかを考える営みを遺体科学と提唱し、研究活動を行っているそうだ。その研究テーマは幅広く、生物の世界の面白さとまだまだ研究され尽くしていない動物の体の奥深さを感じさせる。

鐘楼のマージェリー: セイバイン・ベアリング=グールド傑作綺譚集

鐘楼のマージェリー: セイバイン・ベアリング=グールド傑作綺譚集
created by Rinker

「あのう、教えていただけませんか。そんなに念入りに何を選り分けていらっしゃるんです?」
「能力じゃよ」一番近くに座っている老女が答えた。
「天分じゃよ」二人目が答えた。
「才覚じゃよ」三人目が答えた。
『鐘楼のマージェリー: セイバイン・ベアリング=グールド傑作綺譚集』「クロウディ沼」編集翻訳:BOOKS桜鈴堂

英米古典文学を翻訳し電子書籍化しているBOOKS桜鈴堂の本がいくつもKindle Unlimitedに出ているのでちょくちょく読み進めているのだが、本書は色々ある怪奇小説集のなかでも結構なあたり本。何分古い小説なため現代の目からすると展開や表現に乏しいところがある古典怪奇小説だが、この本に収められているのは面白く、表現も良い話が多い。

表題作は私の気持ちは、うちの林檎酒がうちの林檎から作られるように、私の心から引き出される私だけのものである。うちの樽から好き勝手に汲み取ることは許さない。同様に、誰かが私の胸の鍵を回して、中にある感情を引き出すことも許さないなどと言ってる主人公が岩山の上にある教会に住む不死の呪いを受けた妖怪のような老女を助けるのがギャップがあっていいし、表現自体も気が利いている。

他にも徹頭徹尾残酷童話風な『赤いヴァイオリン』もいいし、世にも奇妙な物語に翻案されそうな『クロウディ沼』もいい。考古学調査をする主人公と先史時代の男の霊が会話をする『H・P』はユーモアがあって短編集のバリエーションと満足度を高めている。俺だってバターを発明したしな。俺の先祖たちはバターを知らなかった。前バター人類だというセリフがいいね。

孫悟空

孫悟空 1 (マンガの金字塔)
created by Rinker

「のう兄弟!!きいてつかいや わしらはいったい何なの!?(中略)人間でもなきゃアもちろン神でも仏でもない!!天宮に仕え玉帝の配下にある神の下僕!! 朝から晩まで働かされて休みなし!! バシタを娶ることも許されなきゃア家もない そのくせ不老長寿で病気もせンような身体を持っとる 働くためにそうされとンのじゃ 言うたらゴミじゃがなア虫けらじゃがなア」
「そのゴミや虫けらの暮らしに反撥してみな天宮を飛び出した 牛魔も悟空もわしらもなア」
「ところが人間界では化け物じゃ 天宮からの追手と闘い人間どもとも闘って生きなならンようになっとるわけじゃア」
「ほいじゃけンなもし人間になれたら幸せじゃないけッ!! のうこンならも人間になれるンじゃ!! お釈迦さまが約束してくれたンじゃけえ 玄奘を担いで天竺へ行きありがたいお経をとってきたらわしらを人間にしてやるてお釈迦さまが言うてくれたンじゃ」
「あてにはならンのう」
小島剛夕 小池一夫『孫悟空 1 (マンガの金字塔)』

小池一夫原作の西遊記漫画。小池一夫原作だけあって悟空も妖怪も三蔵法師もまるでヤクザものだし、話が本筋の天竺への旅を外れてどんどん道なき道を進んでいくのだがそれが面白かったりする。ただし天竺にはつかない。西遊記もので最終的に天竺までたどり着いた作品は少ないという話を聞くが本当な気がする。

西遊記というと悟空が不動の大主役で八戒が脇キャラ、悟浄に至ってはいてもいなくても同じというのが原作だが、この漫画では八戒主役編にかなり筆が乗っているし、それには及ばずとも悟浄主役編もあって西遊記にしては珍しいのではないか。

ブラックロッド[全]

ブラックロッド[全]
created by Rinker

最下層市街。陽光も、階上で毎秒五〇メガ祝福単位クライストの祈りを上げ続ける祈祷塔の金切り声も、ここまでは降りてこない。
そして、異形の雑踏を掻き分けて駆ける男。荒い呼吸、追われる者の表情。振り返るその視線の先に、黒い男。
黒杖特捜官ブラックロッド
黒革のコートに黒いブーツ。黒い制帽の正面には眼を象った徽章エンブレム。その瞳に埋め込まれた、青く光を放つ疑似水晶体。魔術師の象徴「第三の眼」、霊視眼グラムサイト魔導特捜ブラックロッド達人級アデプト以上の位階の魔術師によって構成される。
古橋秀之『ブラックロッド[全]』

ライトノベル黎明期の1990年代に出現した伝説の怪作、第2回電撃ゲーム小説大賞受賞作品というのは公式の説明。

サイバーパンクならぬマジックパンクといった感じの世界観でぐいぐい読ませる。近代文明がコンピューター工学ではなく、魔術工学によって成り立っている世界を想像してもらえばいい。積層都市「ケイオス・ヘキサ」を舞台に暗躍する魔術師たちと黒杖特捜官ブラックロッドの戦いが描かれる……という話かと思いきや黒杖特捜官自体は数多くいる強ザコくらいの扱いになっちゃうのが悲しかったり。魔術に対抗するために自我を消して装置となる特捜官という設定はいいのだけど、キャラ立ちという点ではどうしてもハンデになる設定だ。

サイバーパンクならぬマジックパンクといったが文体はかなりサイバーパンク小説を意識した文体で海外SFを読んでいるような気分で読める。ルビの多い専門用語と疾走感ある体言止めで異世界に浸かりたいという欲求がある読者にはぜひオススメ。

全三作が収録されているが一番好きなのは二作目の「ブラッドジャケット」かなー。最大視聴率的な盛り上がりでは三作目の「ブラインドフォーチュン・ビスケット」の機甲折伏隊ガンボーズと<百手巨人ヘカトンケイル>の戦いだが、「このキャラはどうなっちゃうのだろう?」という興味の持続ちからで言えばやはり二作目のアーヴィーとミラがダントツ。殺人鬼が神を見て改心しストロボ並みの聖光を放射し115立方メートルの不純水を1.5秒で完全聖別するという超弩級聖人のハックルボーン神父もヨシ。キャラが立ってる。

*

初月無料のKindle Unlimitedのサブスクはこちらから

キンドルアンリミテッドバナー

スポンサーリンク
スポンサーリンク