ジャンプの新連載ギャグ漫画がおもしろい
長期連載していたギャグ漫画の『斉木楠雄のΨ難』が終わり、”ジャンプの不死鳥”『青春兵器ナンバーワン』もついに終わり1)個人的にはこれが一番の痛手、『磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜』と入れ替わりで始まった巻末ギャグ枠『トマトイプーのリコピン』が作者の健康問題でウェブ雑誌のジャンププラスに移行して以降、我々ジャンプ読者はギャグ漫画不足に悩まされていた。
『キミを侵略せよ!』は終盤のラブコメ要素強めに出してからは箸休めとして読む枠として結構優秀だったのだが序盤での掴みに大成功しないとジャンプではやっていけないのかあえなく打ち切り……。
そんなギャグ漫画飢餓状態の中はじまったのが『思春期ルネサンス!ダビデ君』と『ジモトがジャパン』のダブルギャグ新連載である。
連載初回は「またラブコメ蠱毒2)『ニセコイ』『恋染紅葉』『パジャマな彼女』などラブコメ作品を同時掲載していた時期がある。生き残ったニセコイはジャンプ史上最長ラブコメになったが、物語後半からの展開は概ね不評。みたいな事やるつもりですか? どっちが生き残るやら」と思っていたが、今ではどちらも楽しみな箸休めになっている。
横顔で山形を表現するネタすき
週刊少年ジャンプ2018年42号
原典どおり眉がないのにモナリザさんかわいい
週刊少年ジャンプ2018年45号
『ダビデ君』に出てきた名画たち
『ダビデ君』には美術作品の、またはそのモチーフになった話のネタがところどころに散りばめられていて、それが結構楽しみだったりする。
話の見せゴマとして模写されてるコマにはキャプションがついているので、いくつかオリジナルと並べてみた。元ネタの画像はウィキペディア・コモンズから。
ヴィーナスの誕生
iPhoneXハードケース ギュスターヴ・モロー作「アフロディテ」 名画アイフォンケース3)ウィキペディアコモンズになかったので絵画を使ってるアイフォンケースで上:週刊少年ジャンプ2018年42号 中:週刊少年ジャンプ2018年44号 下:週刊少年ジャンプ2018年48号
ボッティチェリの描いた『ヴィーナスの誕生』より。ヴィーナスはローマ神話の愛と美の女神。大地の神クロノス4)時間の神クロノスとは別の神。ややこしい。が父ウラヌスのイチモツを鎌でぶった切り、海に放り投げたところから生まれた。『ダビデ君』がちょいエロや下ネタに溢れた漫画になってるのはこうした神話や絵画の文脈を踏まえてのことかもしれない。
中のポーズは1862年に描かれたアモリー=デュヴァル版の『ヴィーナスの誕生』。下のポーズは1870年に描かれたギュスターヴ・モローによる『アフロディテ』。ヴィーナスさん決めポーズ多すぎる。
レダと白鳥
週刊少年ジャンプ2018年47号
ミケランジェロの描いた『レダと白鳥』の絵画より。オリジナルは現存しないが多くの模写によって今に伝えられている。主人公のダビデ君とは作者が同じなので兄妹に。
ギリシャ神話のゼウスが白鳥に変身してスパルタ王の妻を孕ませるエピソードが元ネタ。神話だし人間同士じゃないからセーフだよねという逃げ道でセックスを描くために重宝されたモチーフである。これ絶対入ってるよねの源流。
キリストの埋葬
週刊少年ジャンプ2018年48号
カラヴァッジョの描いた『キリストの埋葬』より。カラヴァッジョはコントラストを激しくきかせたドラマチックな画作りが特徴だが、このコマもその雰囲気を意識してると思う。元ネタにない光るメガネがいい感じにマッチしててすき。
ゴリアテとラフミ
週刊少年ジャンプ2018年48号
ダビデ君のライバルとして登場してきたガキ大将のゴリアテ。ダビデの投石によって倒されたのがゴリアテなので付きまとってくるライバル役になるのは納得できる。聖書にはゴリアテの兄弟としてラフミ(ラミ)の記述があるが、この漫画では妹になっているっぽい。彼女の帽子に付いているツノは聖書にある「機の巻棒のよう」な槍の柄が元になっているのかも。それにしてもラフミちゃんかわいいね。ラフミちゃんもセットならゴリアテは毎回登場してきても構わないですよ。
今後登場しそうな芸術作品&モチーフを考えてみる
元ネタ探しで遊んでるとこれが出たなら今度はあれが出てくるんじゃないかな?という考えも浮かんでくる。なのでいくつかこれはという作品をあげてみた。
ウルビーノのヴィーナス
ヴィーナスさんは長年様々な作家にカかれまくったモチーフなので元ネタにできる絵画はいっぱいあるが、その中でもこれは特に有名な作品なのでいずれ出るでしょって感じの一作。というかエッチング回でベッドに横たわるヴィーナスさんがこのポーズをしていたような覚えがありましたが、確認してみたらうつ伏せで全然別のポーズでした。
ちなみに「ウルビーノ」というのは制作を依頼した公爵の名前。
聖セバスティアヌス
キリスト教を弾圧するローマの軍人でありながら隠れキリスト教徒だった事が発覚、柱に縛り付けられ矢で射られ放置されたが死なず、傷が治ってから再び皇帝の前に現れてキリスト教に帰依するように説いたが棍棒で殴り殺され殉教した聖人。元軍人なので軍人の守護聖人とされたり、矢の痕がペストの腫瘍と似ていることからペストから守ってくれる聖人としても信仰を集めることになった。
聖人というとだいたい汚い長髪に髭面でぼろ布をまとったオッサンなのだが、セバスティアヌスは何故か美少年に描かれるようになり、ほとんど女性にも見えるような絵もある。縛り上げられた半裸のイケメンということで世界中のゲイを魅了した結果5)ゲイだった三島由紀夫も特にこの絵が好きで『仮面の告白』の仲で言及しただけではなく、自分でコスプレしてグラビアを撮らせたりしている。、ゲイアイコン化し同性愛の守護聖人にもなった。
男の娘キャラ、もしくはオカマキャラでどうか。矢の刺さり方も絵によって千差万別なのでなんかやっては矢で射られて一ネタというおきまりの展開にできそう。
聖テレジアの法悦
”エロい彫像”といったら欠かせないのはベルニーニだ。中でも肉感表現が凄いのは『プロセルピナの略奪』だが嫌がる女性をふん捕まえてさらっていくっていうのはちょっとギャグにするのはキツいだろう6)プロセルピナをダビデ君、プルートをゴリアテにやらせればいいかもということで『聖テレジアの法悦』をチョイス。恍惚のトロ顔だけど『食戟のソーマ』が連載できてるならこのくらいのエクスタシー描写は許されるんじゃないか。