劇光仮面の2巻がもうすぐ発売されるので1巻の感想を慌ててあげておく。
「どういう話になるかわからない」というのが怖いんですよ。どこに連れて行かれるかわからないジェットコースターに乗ってる気分で。亡くなった仲間と学生時代の思い出を中心にした文学的な群像劇になるのが順当だけど、戦後マジに仮面をつけて自警活動を行ってた劇光仮面という人物がタイトルになってるし、何気なく家族消失事件が1コマ挟まったり横須賀のコスプレ自警団がサラッと語られたりするせいで、実相寺が劇光服で戦い出す『キック・アス』とか『スーパー!』みたいな方向に進む可能性もないことはない。
そして主人公の実相寺は『キック・アス』の主人公はおろか、精神を病んでる『スーパー!』の主人公と比べてもなおヤバい雰囲気が漂ってくるキャラで手榴弾みたいな男だ。服の下に隠し持てるが秘めた危険性は恐ろしい。4巻くらいで短く終わらせるならば実相寺は誰かを救ったけど逮捕される終わり方だろうか。『タクシードライバー』の日本で特撮オタバージョンみたいな感じで。
人間機雷・伏龍の登場シーンが作中特撮の怪人やヒーローと同じ描き方しているのもヤバすぎるのよ。伏龍を美しいと評した実相寺は切通から殴られるので常識的な視点というのはちゃんと作中に存在するのだが、作品全体としての語り口はむしろ実相寺の視点と同じなのでは。
実相寺が異常なのは自明なのだが、特美研の他のメンバーも普通ではないような。それとも工業大学の学生なら実用性のある特撮スーツを作ろうという提案に面白そうだからやろうとのめり込むものなのだろうか?
空想科学読本を今更Disる怨念は凄いが、「特美造形とは、太古の昔洞窟の中から空を見上げて星と星を結んで神々や怪物の姿を創造し共有した行為を受け継ぐ営みである」という主張と、特美には凶器のように見ただけで恐ろしさを感じさせなければならないので実用性・威力を持たせましょうという実相寺の考え方は食い違っているというか、実相寺の考え方には空想科学読本みたいな特撮ヒーローが現実にいたら実際~という事を言う人間に対してナメられたくないという執念(多分に作者のものも含むだろう)があるように感じられる。読んでいてひやひやするという意味では成功しているが。
山口貴由先生にとっての『キル・ビル』みたいな、自分の愛とか怒りとか憎悪とかそういうものを籠めた作品になるのかもしれない。とにかくどう転がっていくか楽しみです。
切通の死因が気になる。事故だとしたらもうちょっと痛ましい雰囲気になって劇光服なんてとんでもないとなりそうだ。遺言を残していることから考えると自殺か病死だろうか。描写されている限りでは切通は自殺をするような人間には見えないし、実相寺たちも死んだこと自体に驚いている様子はないので病死の線が強いか。ただ病死なら病死と描けばいいのに死因を明確にしてないあたりも怖いんですよ。
後、ウルトラマンモチーフのネビュラブッティの劇光服にはどんな機能があるのだろうか? 流石にスペシウム光線は再現できないだろうし……。新幹線に乗って4時間着っぱなしということは重量もそれほどない=ギミックが仕込まれてないから、ネビュラブッティのスーツは劇光服ではないのかもしれない。
主人公、実相寺二矢の元ネタは『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などの演出で有名な実相寺昭雄監督だろう。
名前の方は浅沼稲次郎暗殺事件を起こした山口二矢から取っているのではないか。1960年に社会党党首、浅沼稲次郎を演説中に刺殺し、鑑別所に「天皇陛下万才、七生報国」と書き残して自殺したテロリストだ。
名前の元になっていると思われる滝沢真里は『仮面ライダー』『超人バロム・1』『キカイダー01』などの特撮作品で脚本を書いた脚本家。
勤めているテカラトミー事業部はタカラトミーが元ネタだろう。そこはバンダイじゃないんだ……。タカラトミーがスポンサーの特撮作品としては「ガールズ×戦士シリーズ」、「トミカヒーローシリーズ」、『魔弾戦記リュウケンドー』など。
元ネタは「爆発の中野」というあだ名があることで有名な特技監督、中野昭慶。代表作は『ゴジラ対メカゴジラ』や『日本沈没』など。
また、彼が装着する劇光服壁人キボーガーの元ネタであるザボーガーには中野刑事という登場キャラがいるのでダブルミーニング?
他の元特美研所属者は製作者の名前が元ネタだけど、芹沢で特撮と言ったら初代『ゴジラ』の芹沢博士しか思いつかない……。オキシジェン・デストロイヤーを使ってゴジラを倒した青年科学者。海中に爆弾とともに潜航して自爆というのは伏龍とも重なるものがある。
この作品のヒロイン的存在?の成田一縷の元ネタは、ウルトラマンや数々の怪獣のデザインをした美術家、成田亨と思われる。いちるの祖父成田優作がネビュラブッティのデザイナーということになっているので彼女起点に特撮関係者がストーリーにでてくるかも。
切通理作は評論家で製作者じゃないけど、特撮関係の本をいくつも出している有名な人物なので多分この人が元ネタだと思う。特撮批評史というのはさっぱり知らないが、大江健三郎が『破壊者ウルトラマン』でウルトラマンは在日米軍であるというような批評があったのに対して切通理作は、初期ウルトラシリーズの脚本家である金城哲夫、上原正三が沖縄出身であることに注目してカウンターカルチャーとしてのウルトラマン批評を打ち出し大きな影響をウルトラマン批評史に残したらしい1)生前の金城を知る者からすると彼が沖縄のことを特撮に反映したかについては疑問があるそうだが。参考にしたのは以下のPDF。
特撮製作者の生い立ちから作品(怪人)を読解するという手法は特美研のメンバーもやっていたので、切通アキノリの元ネタとして考えるに十分かと。
劇光仮面の名前は月光仮面が元ネタだと思われるが、作中では劇光仮面は占領下日本で自警活動を行っていた実在の人物なあたり、月光仮面とはずいぶん違う。作中で”正義の味方”と呼ばせているから意識は強くしているだろうが……。
「ヴェヒター」はドイツ語で「番人」の意味。名前はミカドロイドだが、戦後まもなく撮影された特撮映画「空気軍神現る」の登場人物ということを考えると、『透明人間現わる』(1949年)の方が比重が高いか。ミカドヴェヒターの仮面は実際に撮影に使用されたオリジナルプロップとセリフにあるが、何十年も前の特撮映画のプロップをどう入手したのかは今後語られるのだろうか。実相寺はなぜ自分が着る劇光服としてミカドヴェヒターを選んだかに絡んでストーリーに出てきそうだ。
人間と爬虫類の合成生物ヴァイパーの元ネタはどうみても仮面ライダー。本作ではヒーローよりゼノパドンやシャゴラスなど怪人がフィーチャーされているが、彼ら怪人をデザインした狭山章の元ネタは仮面ライダーの怪人デザイナー高橋章だろう。狭山章は伏龍特攻隊の生き残りだけど、高橋章は1938年生まれだからモチーフになった人物とはだいぶ年齢が違う。伏龍製作が1945年でその時狭山氏が20歳と劇中で描かれているから彼は1925年生まれで、仮面ヴァイパーが仮面ライダーと同じ1971年放送だとしたらヴァイパーの怪人を作っていたのは46歳ごろ。なかなかのベテランだ。
ウルトラマンが仏像のアルカイックスマイルをモチーフにデザインされたことは誰もが知っている豆知識。ネビュラブッティの目元にあるホクロ?は過去作『悟空道』の三蔵の目元にあるビンディを意識しているのだろうか。
1954年の映画、水爆実験で突然変異を遂げた恐竜、口から放射能を吐く。わかりやすくゴジラ。
『劇光仮面』作中はいちるが琵琶湖原発の廃炉プロジェクトで働いており、核燃料デブリをヴルードと重ね合わせているが、原発の比喩としての怪獣というのはシンゴジラが直接的な参照元かなと。
単行本にはまだ入っていないが、マイクを通して遠隔操縦するのと名前からして電人ザボーガー。しかし、「元々某国の独裁政権が量産した民主化デモ鎮圧用ロボットだったが、電子頭脳の故障によって人間を蹂躙する命令に従わなかったため、日本に修理のため輸送されてきて、それが配達ミスで鈴木少年の元へ」ってすげぇ面白そうなあらすじ。最終回でキボーガーを取り戻しに来た独裁政権が差し向けてきた故障していない本来のキボーガー軍団を倒すも自分も再起不能になって鈴木少年と涙のお別れしそう。
名前とハサミモチーフの仮面からして、戦前愛人の首を絞めて殺して性器を切り取った女性、阿部定が元ネタ。そんなモチーフの変身ヒロイン絶対いねぇから! 山口先生正気になってください。こいつだけ愛國戰隊大日本みたいにパロディ特撮じゃないだろうな。だとしたらそんなコアなキャラを高校生でコスプレしてる真理りまがとんでもないが。
蝶モチーフの特撮ヒーローといったらイナズマンだが、忍者の要素は変身忍者嵐か? 前作『衛府の七忍』の怨身忍者のネーミングは変身忍者から取ってきてるし、見た目的にジライヤや忍者キャプターではないし。
脚注
本文へ1 | 生前の金城を知る者からすると彼が沖縄のことを特撮に反映したかについては疑問があるそうだが |
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