『Her Story』は非常に珍しいシステムをしたアドベンチャーゲームだ。あらすじは以下。
ストーリー
1994年のイギリスで、一人の男性が行方不明となる事件が発生した。その男性の妻とされる女性に対する事情聴取は数日間、7回にも及び、その際に録画された映像は警察のデータベースに保存されている。
プレイヤーは警察の端末を操る人物となり、分割された事情聴取映像を元に事件の手がかりを探っていく。
動画内に散らばるキーワードを元にデータベースを検索し、事件の真相を導き出しましょう。
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通常のアドベンチャーゲームは色々な場所を周り、色々な人と話し、フラグを立てて選択肢を選ぶ。そういうものだ。
だが『Her Story』には色々な場所も色々な登場人物も、フラグも選択肢もない。あるのは映像の断片が大量に詰め込まれたアーカイブシステムとビデオに映る女性だけだ。
アーカイブシステムには大量の証言ビデオが格納されており、キーワードを入力することでビデオを取り出して見ることができる。
実際にゲームを起動すると以下のようなアーカイブシステムのインターフェイスが映し出される。
この検索欄に「殺人」とキーボードで打ち込んで、エンターを押すと以下のように「殺人」という言葉を証人が話した映像が収録されているビデオクリップが並べられる。どうやら「殺人」という言葉が出てきたビデオクリップは4つしかなかったようだ。
そこで一つのクリップを選んで「再生」すると、短くて5秒、長くて2分のビデオクリップが再生される。ちなみに一度見たビデオクリップは重要なものであれば「セッションに保存」しなんども見ることができる
いくつかクリップを見てみると「サイモンの殺人」という発言を証人の女性がしていてこれの単語は非常に興味深い。サイモンが殺したかそれとも殺されたのか事件があったことには間違いなさそうだ。
そこで「サイモン」でアーカイブを検索するとなんと52個ものクリップが見つかる。しかしこのアーカイブシステムではクリップが検索に大量に引っかかっても最初の5つしか閲覧できないようになっているのだ。
プレイヤーはこのクソみてぇなアーカイブシステムの前に座ってキーワードを探し。キーボードを打ち込み、大量の断片的なビデオを見て事件の全体像を掴んでいく。推理ゲーの「推理要素」を純化してプレイヤーに投げ出していると言ってもいい。
ある意味直接コマンドをキーボードで打ち込んで正解キーワードを探し出す古代のアドベンチャーゲームの雰囲気を蘇らせたようなゲームとも思える。後、昔フラッシュゲームでコマンド欄に適当に「脱ぐ」とか「おっぱい」とか入力すると画面の女性がそういった行動を取ってくれる18禁実写ゲームがあったのだがその記憶も思い起こさせる(そんな男は結構いるはず)。
さらにこのゲームには「犯人当て」すらない。それどころか「クリア条件」すらないのだ。真実の全体像をまとめられようがまとめられななかろうが、同じエンディングが流れる。かなりハードコアで実験的なゲームなのは間違いない。だがそれだけに複数のビデオクリップを見ながら違和感に気づいたり、立てた仮説を裏付けてくれるようなビデオクリップを見つけたり、まだ見ていないビデオクリップを掘り出すキーワードを見つけられた時の喜びと好奇心、断片から全体像をまとめあげて推理していくときの高揚感はかなりのものだ。
世の中に推理ゲーは数あるのだが、このゲームではプレイヤーの推理があっているのか間違っているのかゲーム側で判断してくれない。「それもいいんじゃないか」程度で終わってしまう。徹底的に突き放されたゲーム体験で、人によっては「こんなビデオを見ていくだけのゲームなんてゲームじゃねえ」という人もいるかもしれない。ただ、『Her Story』がゲームにしろ映像作品にしろ、尖った、オリジナリティのある作品なのは誰もが認めざるを得ないだろう。
そしてこのゲームを魅力的にしている大きな要因の一つは、証言者の女性を演じるViva Seifertの力も大きい。彼女の演技は「Game Award 2015」においてベストパフォーマンス賞に選ばれたそうだが、ビデオクリップに現れる怒り笑い悲しみなどの表情は、そこに「ゲームのキャラクター」ではなく「本当の女性の証言者」がいるように思えさせて没入感を大いに高めてくれる。『街』』など実写ゲームの成功作の一つというカテゴリーで語られても良い一作だ。実写ゲームは実写ということに拒絶反応を示す人も多いし、出演者のアイドルやら女優のファンに売るために作られた実写ゲームも多いが、本作は実写でやることの必然性があると思う。現実に生きた彼女の人生に迫っていくゲームに生身の肉体があると説得力が段違いにあがる。
昔は日本語がなかったようだが、今は日本語翻訳はしっかりした公式のものがあるから安心してプレイしてみてほしい。「実写のゲームは苦手で……」という人でも本作品なら気にせずプレイできると思う。
そしてプレイを終えたあなたは思うのだろう。「これは確かに”彼女の物語”だった」と。
さて、実は私はとりあえずエンディングを見ただけで、すべてのビデオクリップも見ていないし、事件の全貌をすべて把握したわけでもない。75パーセントのビデオを見たという実績を解除してないので、見たビデオクリップは6割~7割だろう。それでも物語のだいたいのあらましは掴めたとは思うが。これからクリア後に解禁される「一度に見れるビデオクリップ数の増加」と「ランダムアクセス」を使ってすべてのビデオクリップを見てみることにする。